ふたつのフィリッピン映画

 最近、偶然フィリッピンの映画を二本立て続けに見た。

 一つはMa Rosa(邦題:ローサは密告された)というフィリッピンの監督、ブリランテ・メンドーサの作で主役の女性はカンヌ国際映画祭で主演女優賞をもらっている。

 もう一つはBlanka(邦題:ブランカとギター弾き)。こちらは監督は日本の新人監督の長谷井宏紀氏。ヴェネツィアビエンナーレヴェネツィア国際映画祭の全額出資を得て作られ、ヴェネツィア国際映画祭他で多くの賞を得ている作品である。

 両作品とも、マニラの貧民窟で逞しく生きる人々を描いたもので、ギター弾きは本物の流しの盲目の人で、他の出演者もほとんどがスモーキーマウンテンあたりで監督が見出した素人ばかりということだった。

 どちらもなかなかの力作で見応えがあったが、Ma Rosaの方は貧民窟で小さな雑貨店を営むが、麻薬も扱っており、警官に踏み込まれて夫婦が逮捕される。ところが警察も腐敗していて、常習的に金を積んだら釈放するという裏取引を持ちかけるような所なのである。

 親が逮捕されたのを知った息子や娘が警察署にやって来て、親から金を要求されていることを聞き、それぞれ子がそれぞれに無理をして金を算段するが、集めても要求額に少し足りない。最後にその分を母親のRosaが任せろとばかりに質屋に行ってケイタイを売って、用立ててくるストーリであるが、 Rosaの演技が素晴らしい。 

 最後の串刺しの饅頭(?)を一つづつ食べながら街を眺める彼女の逞しい表情にはこちらもついホロリとさせられるものがあった。

 マニラの貧民窟やそこで暮らす人々の様子、腐敗した警察内部のまるでヤクザのような裏事情などもよく描かれており、私には日本の戦後の闇市なども思い出されたし、マニラの貧民窟の様子もいくらかわかるような気がした。

 なかなか力強い作品で、最近見た映画の中では一番印象深いのではないかと思われた。

 一方、Blankaの方も主演の11歳の少女の演技も歌も立派だったが、監督が見つけてきた子供たちの演技も素晴らしく、全体としてもなかなかよく出来た作品に仕上がっていた。

 この映画がヴェネチアで映画賞を貰った3日後にこのギター弾きが亡くなったと出ていたのも印象的だった。

 こちらもマニラの貧民窟での孤児たちの逞しい生き方をうまく描いており、それでいて少女の母を買おうとする発想や、盲目のギター弾きとの友情など印象に残る場面も多かったが、MaRosaに比べると、見方が第三者的で、ストーリーももう少し整理した方が良かったのではなかろうかと感じた。

 現在のフィリッピンの経済状態がどうなのか、その中でマニラの貧民窟の現状などがどうなのか、フィリッピン映画の現状がどうなのかについて詳しい知識はないが、人々はどんな厳しい条件に置かれてもそれなりに工夫して逞しく生きるものだなと考えさせられた。

 今の日本と照らし合わせても、両作品ともに見て良かったというのが今の感想である。