国会の答弁で安倍首相が「・・云々」と書いてある原稿を「デンデン」と読んだことがSNSで嘲笑の的になっている。以前、森首相が「未曾有の」を「ミゾユウ」と読み、「IT」を「イット」と言って笑いものになったのと似ており、教養の無さを暴露されたようなものだが、漢字の読み方は案外難しいもので、学のある人でも初めから誤って思い込んでいることも少なくないので、首相ともあれば仕方がないであろうが、そんなことだけで文句を言われるのは少し可哀想な気もする。
現在朝日新聞に夏目漱石の小説が連載されているが、漱石も明らかに間違いだと言えるようなものまで含んで、かなり適当な当て字を使っている。
いつだったか地名や人名の読み方の難しさについて書いたことがあるが、それらは別としても、一般の言葉でも読み方がいろいろある漢字も多く、どの読み方を取るか、初めから間違った読み方を覚えてしまっていることもあるし、漢字の読み方が時代とともに変わることだってあるからややこしい。
以前勤めていた病院の事務長さんが「診療圏」というのをを公式の席で「シンリョウエン」と繰り返すので忸怩たる思いで聞いていたことを思い出すが、人のことは言えないもので、私も「一石二鳥」を長い間、「イッコクニチョウ」と読んでいたことがあった。
若い頃、喫茶店のことをおばあさんで「キッチャテン」と言う人がいて、間違って読んでいると思っていたが、喫茶店は元々「キッチャテン」と読んでいたのが、いつしかなまって「キッサテン」というようになったのだということを後で知った。
また頭痛は普通「ヅツウ」と呼ぶが、「トウツウ」という人もあり、医者でも頭部外傷を「トウブガイショウ」という人と「ヅブガイショウ」という人に分かれる。またばら撒くことを「播種」というが、本来は「ハシュ」だったのが、今では殆どの人が「バンシュ」と読むようになっている。
思いついたものをあげただけだが、同じような例はいくらでもあるのではなかろうか。
漢字も社会でずっと読み継がれていく生き物なので、その時代によって変化もしていく。その時代によって正しいとされる読み方も変わっていっても不思議ではない。
ただ漢字はコミュニケーションの大事な道具なので、その読み方も同じ時代の同じ社会では、その時の大勢に合わせていかなければ仕方がない。「デンデン」は少しひど過ぎるが、政治家であれば、酷かもしれないが、よく使われる漢字ぐらいには注意しておいて欲しいものである。