日本の住居表示

 最近インターネットのブログを見ていたら「日本の住所はわけがわからない!?不規則な番地に困惑する海外出身者」というのがあった。ある在日外国人は「日本に来て最初に気づくことはほとんどの通りに名前がなく、建物番号に秩序がないことだ」と言い、それもめちゃくちゃわかりにくいとしていた。

 外国では「〇〇ストリート〇〇番」といった道路名+建物番号式が多いので、街の中で目的地のたどり着くのが容易だが、日本では大きな通り以外には道路に名前がないので、殊に外国からの旅行者には分かりにくく困ることが多いようである。

 欧米の国ではどの道路にも名前が付けられていて、その何番かで建物が同定される道路名を基本とした仕組みになっているのが普通であるのに対して、日本では地域を細分する区画に地区名が名付けられていて、その中の番号などで建物が同定されるようになっている。この方式では道路に名前がなくても困らないわけである。建物の位置を同定する方式が違うのである。

 実地にその建物に行く人にとっては道路名式が便利なのは当然であるが、道路もない山や野原に家が建ち、それが次第に広がって村落を作ってきたような場合には道のない所に建物があることになるし、城下町や密集した部落などのように、細々と狭い曲がりくねった道や路地などを挟んで家々が立て込んでいるような町や村では道路は細切れなので名前も付けにくいだろうし、地区で捉えた方が分かりやすい。

 そのような村や町の発達の歴史や実情に合わせて、日本では遠距離を貫く街道などには名前が付けられている他は、地域の道路には名前がないのが普通である。細い道路が細々と入り組んだ部落や村落、町などでは道路より家並みや田畑の区画に名前をつけて位置を示すところが多かったので道路に名前をつける意味が少なかったのであろう。 

 その他にもその土地の歴史やその他の事情で、いろいろ必然性があったのであろうが、古い歴史のあるところでは、そこの都合の良いように地番や建物の場所の同定が行われるようになってきたのであろう。

 従って、日本でも大阪などでは太閤さんの時代から碁盤のような町が築かれ、それに従って縦横の通りに名前をつけて道路名式に場所を同定するようになっていたし、京都の上がる、下がる、東入、西入るなども、道路を基本にした同定方法による細やかな案内方法から来ているのである。それぞれ国や地方によって町の成り立ち方が違うので地方により、国により同定方法も違ってきたのはやむをえなかったことであろう。

 しかし交通が発達して人の交流が盛んになり、旅人などが知らぬ土地を訪れることが多くなってくると、そうした人たちの便宜も考えなければいけなくなる。そこで日本でも千九百六十年代から時代に応じて住居表示の改正が行われてきたが、上述のようにいろいろ地域によって異なるそれぞれの歴史にも結びついた住居表示法を全国一律に決めるのは簡単なことではなかったようである。その結果が現在の表示法になっているのであるが、当然問題が多い。

 実際にそこを往来する人から言えば道路名法式が便利に違いないが、道路名方式では目的の道路がどこにあるのかを見つけなければならない。他方、地区画名式では大まかな地域にはたどり着きやすいが、目的地を見つけるためにはその中を歩きまわらねばならないことになる。

 私の経験でも、知らない町で目的の建物を探す時など、GPSを持っていないので、現在地を知るのに今いる通りの名前がわかれば良いのにと思うことがよくあるが、殆どの道路には標識がないし、名前自体が付いていない道路が多い。また、どこかを訪ねた時も住所が分かっていてその町まで行っても、1丁目の隣に6丁目があったり、3番地の隣が5番地で4番地が飛んでいたりしてなかなか目的地にたどり着けないこともある。道路名方式でもドイツでやっと通りの名を見つけ、そこに出たが長い通りで、番地を探せば随分長い距離を歩かねばならないこともあった。

 どちらの方式にしても一長一短はあろうが、行政の関係などで町全体を俯瞰的に見て目的地を探す時などは道路名方式より地区名方式のほうが見やすい。しかし、実際に現地に辿りつきたい時には道路名方式の方が遥かに優れている。行政の見方か住民やそこを利用する旅行者などの見方かということにもなるのであろうか。

 幸か不幸か、住居表示方式を決めるのは住民より行政の方なので、日本では地区名方式が優先されることなったのが現状のようである。おかげで大阪市の中心部などではそれまで町と筋で名付けられた縦横の道路名方式で分かり易かった所まで、地区名方式に変えられて返って分かり難くなった所もあるようである。

 今日のように国内の旅行者や外国からの観光客が増えてきた現状を見れば、特別な場所は除くとしても、出来るだけ全ての道路に名前をつけて道路名と番号でどこでも容易に目的地にたどり着けるようにしてもらいたいものである。日本式の地区名式をとっていた韓国も道路名式に変更したそうである。

 観光日本を売り物にするのであれば、もう一度住居表示方式を見直しても良いのではなかろうか。