イスラム国で拘束された二人(続き)

 イスラム国で拘束されていた二人は悲しいかな二人とも処刑されたようである。ご家族の心痛は察して余りがあるし、尊い命の損失は痛恨の極みである。ご両人のご冥福を祈るばかりである。

 安倍首相は「卑劣きわまりないテロ行為に強い怒りを覚えるといい、テロリストたちを決して許しません。その罪を償わせるためにために国際社会と連携する」と言っている。当事国の首相としては当然の発言であろうが、少し言い過ぎだし、それより果たして卑劣で残忍なのはイスラム国だけであろうか考えるべきであろう。

 インタネットなどからのいろいろな情報を総合して考えると、政府や大きなメディアは言わないが、今回の事件は単にたまたまイスラム国に行った邦人が捕まって処刑されたというようなものではなく、もっと複雑な裏があるようである。

 もともとイスラム国はアメリカが不当に侵略し国家を崩壊させたイラクの敗残兵であるバース党の敗残兵や旧官吏たちが作ったものである。大量破壊兵器を持っているという情報をでっち上げて侵略し何十万という人々を殺し、国をめちゃめちゃにしたのはどこの国だったのであろうか。

 その上、今なおイスラム国にドローンによる空爆を続け、大勢の住民を殺している行為は卑劣で残忍ではないのだろうか。宣戦布告もしていない他国を勝手に攻撃するだけでも無道なのに、自分たちは安全な場所にいながら情報だけを頼りに空爆すれば普通の住民がどれだけ突然に過酷な悲劇に落とし入れられることは容易に想像出来ることである。事実、多くの住民が犠牲になっているようだが、その行為は残忍ではないのだろうか。

 イスラム国側から見れば、「アメリカなどのミサイル攻撃で大量に殺せば残虐でなくて、イスラム国が少なく殺せば残虐だということ」なのかと言いたくなる。圧倒的な力を持った大国に不当に痛みつけ続けられて、それに対抗するにはテロ行為ぐらいしか残されていない人たちの心情も考えるべきではなかろうか。

 イスラム国には中近東のイスラム教國からだけでなく、フランス、ドイツ、イギリスなど広範囲の地域から若者が参加しているようで、それだけの報道されない若者を引きつける何かがあるともいえる。彼らを武力で征服出来ないことはイラク戦争のこれまでの歴史からもわかる。

 相手を残忍と決めつける以上、自分たちの残忍さにも目を向けるべきで、その反省に立って、戦いを止め、過去の誤りを正し、償い、食料支援、医療支援などの人道支援をし、貧困や破壊からの救助するのが「人の道」ではなかろうか。 

 それにもかかわらず安倍首相のいう「国際社会と連携して罪を償わせる」と言うことはアメリカの先兵となってイスラム国と戦う宣言をしているもので、これでは後の続く「人道支援」の言葉も「平和と言いながらの戦争」と同じに取れられても仕方がない。当然今後日本人がターゲットになり攻撃される可能性が高くなる。

 少なくとも集団自衛権行使によってアメリカの先兵としてイスラム国と戦うことを止め、中立を守るべきであろう。それが折角の中東に於けるこれまでの日本の評判を維持し、日本が欧米の侵略者の仲間ではないことを示し、今回のような拉致事件やテロ行為の再発をも防ぎ、日本の国民の安全を守るための最善の道である。

 将来の石油資源やその輸入の確保のために中東諸国との関係は重要である。日本がアメリカの保護国でアメリカのご機嫌を伺わねばならないにしても、そんなに遠くまで自衛隊を派遣して不要な敵を作り、危険まで背負わされる道理はないであろ う。

 なお、今回の犠牲者の二人については湯川氏は民間軍事会社を立ち上げ戦争に加担して一儲けしようとしていたのではないかと思われる人物で、田母神氏とも関係があったようである。そのためイスラム国へ入国し、スパイ容疑で捕まり裁判にかけられることになっていたようである。

 その裁判のためにイスラム国との接点のある常岡、中田の両氏が現地に赴くことになっていたが、アメリカのイスラム国への空爆のために中止になったとか、日本の警察が常岡氏のイスラム国との関係を怪しんで同氏宅を家宅捜索したりして計画を潰してしまったとかも言われている。

 そのため今回イスラム国との直接交渉の窓口を失ってしまったので、ヨルダン政府に頼らざるを得なくなったのだとも言われる。後藤氏は以前に湯川氏がシリアの反政府側に拘束された時に助けに行って以来ずっと湯川氏と一緒に何度もイスラム国へも入っており、今回も湯川氏を助けるために後から入って捕まったので、湯川氏のスパイ仲間とされたのではないかと言われる。

 また二人とも多額な危険保険に入っていたそうで、個人的な動機で行ったものではなく、日本版CIAのような裏組織の要員で自衛隊が活動する時に備えての情報収集するのが目的だったと疑っている人もいるようである。もしそれが本当なら安倍首相の言も虚ろに聞こえることになる。

 政府は彼らが捕まった昨年末から状況を把握していたはずで、それを承知の上で「イスラム国がもたらす脅威を少しでも食い止めるため、2億ドル出す」と言ったので、イスラム国側が予め決まっていたのかも知れない二人の運命を交渉の材料であるかの如くに出してきたものかも知れない。

 政府はこれを密かに幸いとして集団的自衛権行使に踏み切り、アメリカの先兵として中東での戦いに深入りする積りかも知れないが、日本が海外に敵を増やし、そのために日本の平和が不安定になり、被害がもたらされるような愚だけはなんとか避けてもらいたいものである。

 平和ボケと言われても平和ほど有難いものはない。アメリカともよく交渉して、昔も聞いたことのある「この道しかない」と言わずに賢明な道を選んで貰いたいものである。