よく眠る

 まだ若く現役で仕事をしている時には、色々とその時々のストレスもあり、眠れぬ夜も多く、睡眠薬のお世話にならねばならないこともあり、睡眠薬はいつも幾らかは身近に確保していたものだったが、歳をとってから、もう睡眠薬を飲まなくなって、どれだけになるであろうか。

 それに歳をとると睡眠時間は短くなるし、それで良いのだなどと言われるが、私の場合には歳を取って、返って睡眠時間が長くなったようである。

 それも昔は低血圧の人に多いように朝に弱く、若い時は放っておけば、昼まででも寝ていたもので、学生の時は朝の講義に出て行くのが辛かったことを覚えている。夕方になると元気が出てきて、さあこれからだという感じで、夜はいつまで起きていても平気で、人が寝静まってからの方が仕事の能率も上がる様であった。

 ところが仕事の都合もあり、時間をかけて通勤するようになり、しかも外来診療が終わるのが遅くならないように、診療が始まる前に、予約患者のカルテを見て色々準備をしたりするために、一番電車で出勤するようになったのがきっかけか、次第に朝型人間になり、年とともにそれが身についてしまって、退職してからも、ずっと早起きになってしまった。

 朝が早いと、当然早く眠くなるわけで、遅くまでしなければならない仕事も減ると、余計に早寝早起きになってしまい、それでも初め頃は、9時か10時ごろに寝ていたものが、いつ頃からか、もう8時には眠くなって寝るようになり、知人からもあそこは8時以降の電話はダメと認識してもらうようになってしまった。

 夜の就床が早いと、当然朝早く目が醒めることになる。それが次第に嵩じて、最近はもう7時半に寝て3時半に起きるのが普通になってしまっている。体の新陳代謝の日内変動がもうそうなってしまっているので、何かの会合に出て夜が遅くなっても、朝は3時半ごろになると自然に目が覚めてしまう。

 そんなに早く起きると、昔なら何もすることがなくて困ったかも知れないが、今はパソコンがある。起きてまず最初にすることがパソコンのスイッチを入れることになっており、やがてメールやSAFARIなどが立ち上がって、それに対応しなければならなくなる。起きるとすぐに忙しくなるわけである。

 その代わり9時過ぎになるともう少し眠くなるので、大抵は30分ぐらいナップをとることになる。眠り過ぎだとも言われるが、それでもよく眠れるものである。

 あまり良く眠むるので女房が感心して金子兜太の句を渡してくれた。

   よく眠る夢の枯野が青むまで

  (それをもじった私の句は、よく眠る枯野に春の巡るまで )

 兜太先生もよく眠られたので96歳だったかまで生きられたのであろう。必要な睡眠時間は人によって色々で、他人のことはあまり気にしないで、成り行きに任せて、素直にそれに従うのが良いのであろう。