力持ち

 最近は外国人の観光客も多いし、日本に住む外国人も多くなったので、街中や電車の乗っても、昔と違って、色々な人に出会える機会が多くなって楽しい。

 体格や皮膚の色、服装などだけでなく、それぞれに生活習慣の歴史を背負っているので、ちょっとした仕草や動作にも、それぞれの文化的背景の違いが現れたりして、観察しているだけでも興味深い。

 時には、これまでに経験したことのないような光景に出くわすこともある。最近、立て続けに経験したのは、いずれもびっくりするような力持ちの外国人であった。

 一人は梅田の地下街でのことである。大勢に人が地下鉄の改札口に向かう人混みの中で、前方に人々の頭を抜いて、大きな真っ赤な荷物が揺れながら進んで行くではないか。一体何なのだろうか確かめようと思って、急ぎ足に人の間を縫って近付くと、地下鉄の改札口を入っていくではないか。

 私も幸い同じ地下鉄に乗るところだったので、後ろからついてホームへの階段を降りていく。大きなコウケジアンの男性が頭にその赤いバッグを担いでいるようである。

 ホームまで降りて、やっと近くまで追いついたが、近付いて見るとびっくりした。大男とはいえ、バックパッカーが背負っているような特大のリュックサックを背中に背負い、前方の胸の前には黒いこれも普通に見られるより一回り大きいバッグを両腕を通して抱え、更にその上に、真っ赤なこれも特大のバッグを、背中に背負った大きなバッグの上に乗せ、そのバッグの帯を額に巻いて支えているのである。

 三つの大きなバッグを合わせると百キロ近くにはなるのではなかろうか。これまでにも、普通より特別に大きい背の高いリュックを背負った人や、背負いっ子で大きな荷物を運ぶ人は見たことがあるが、こんな三つの大きなバッグを器用に運んでいる人は見たのは初めてである。

 上に乗っけた真っ赤なバッグが人混みの中を、ひときわ高く揺れながら進んでいく光景が印象的であった。こんなことは力の強い大男にしかできない特技であろう。

 もう一つの出来事は、阪急の宝塚線の中でのことである。私の横にインド系のような男が隣にせいぜい2〜3歳ぐらいの可愛らしい女の子を二人座らせて乗っていた。電車の走行中に子供達は二人ともいつしか眠ってしまっていた。ところがどうも石橋でおりるらしい。直前になって男は立ち上がり棚から大きなリュックをとって背負った。

 やがて電車は石橋のホームに着く。子供達はぐっすり眠ったままである。どうするだろうか、他人事ながら心配になる。普通なら寝ている子供をおこすところであろう。一人ならともかく、二人の眠った子をどうするのだろうかいささか心配になる。

 よほど May I help you? と声でもかけてやろうかと思ったが、件の男性は気にもかけず、当たり前のような顔をして、一人の子供を右肩に抱えたかと思えば、間髪を入れず、もう一人の子を左肩に抱え、あっという間に開いたドアからさっさとホームへ降りていった。

 私なら電車からとっさに降ろすには同じような事をしなければならなかったかも知れないが、たちまちホームでへたってしまうか、へたってしまわなくても、ホームの椅子に子供を下ろしてやれやれと一息つくところだろうが、その男は何でもないようにホームへ降りてからも、背中に大型リュックを背負って両方に眠った子供を抱えたまま、一直線に改札口の方へ歩いて行った。

 反対側の座席に座っていた老人も呆気にとられて見ており、お互いに目を合わせて微笑んだものであった。

 世の中には色々な人がいるものである。こうしたことも人々の多様性が大きくなったから見られるようのなったものである。多様性万歳!老人にはいながらにして、色々変わったものを見せてくれ、有難いことである。