同じ世代

 朝日新聞の文化・文芸欄に色々な人の「語る・・人生の贈りもの」というシリーズ物が載っているが、今回は、金時鐘さんが「今年で90歳になった」という文を書かれていた。

 私と一つ違いなので、戦中、戦後の頃の事がよくわかる。「『皇国少年』になりきっていた私は、45年8月15日の日本の敗戦で地の底にめり込んでいくような墜落感を味わいました」と書かれている意味が嫌という程判る気がした。

 大日本帝国に純粋培養されたような私は、それこそ忠君愛国の熱情に燃えて、帝国海軍将校を目指す海軍兵学校の生徒として、まともに「天皇陛下のために命を賭して」と考えていたのが、敗戦で自分の全てが否定されてしまって生きる柱が無くなってしまったことを今も昨日のことのように覚えている。それから立ち直るのに何年かかったことだろう。私の人生に未だににその傷跡を残している。

 然し金氏の場合にはもっとひどかったであろう。自分のよって立つ国がなくなり、4.3事件で故郷を追われ、命からがら日本に亡命しなければならなかったし、それまでの自分の言葉である日本語を否定され、自国語である朝鮮語を必死になって学ばなければならなかったのである。天動地変のような時代の急変を乗り越えるのはそれこそ大変な事であったであろう。

 しかも、その後も、解放されたはずの朝鮮は南北に分断され、朝鮮戦争が続くという悲劇が続き、「私は一体何から解放されたのだろう」という疑問を自らに発せねばならなかった苦しみは、私の陥ったニヒリズムよりずっと深いものであったであろうと思われる。