とある喫茶店で

 箕面の滝まで歩いてきた帰りに、箕面の駅前にあるパン屋さんの喫茶室で休憩した。ちょうど電車に乗る前の一休みになるし、以前に入った時に食べた小さなチーズの詰まったようなパンが美味しかったことを思い出したのであった。

 パン売り場の横のスペースに、机や椅子を並べて、パンや飲み物が取れる小さな喫茶コーナーが設けられている。座った席のすぐ向こうの壁よりにも、いくつか席が設けられており、ほぼ満席であった。

 ゆっくりパンを食べ、コーヒーを飲みながら、必然的に近くの席の人々を観察することになった。すぐ対面のテーブルには、中年過ぎのおばちゃんが3人座って、それぞれに違ったパンや飲み物を取りながら話をしている。

 女3人寄れば喧しいというが、この3人も結構よく喋っていた。どのグループでも、大抵よく喋る人がいて、聞き手に回って相槌を打つ人もいて、話が盛り上がるようである。声が大きいので、ところどころ嫌でも話の内容が聞こえてくる。

 ちょうど選挙の時期なので、選挙の話が聞こえてきた。この駅前にある交番の後ろの方にも投票所があるらしい。3人とも近くの人らしく「あなたは近いからいいわね。私なんか市役所まで行かねばならないので遠いんよ」と聞こえて来る。

 そのうちに今度は「これまで一回350円だったのに450円になったのよ」と一人が言い、向かいの人が「そんなのもう行かんどき」と繰り返す。何の話かと思ったら、どうもひとりが膝か腰のリハビリに、最近どこにでもある鍼灸院のような所へ通っているらしい。

「そういう所は大抵毎日来なさいというのよ」「だけど毎日行く必要なんかないのよ。行かんどき、行かんどき」・・・「そこは整形外科なの」「ちゃうの?」「私の行ってる整形の**医院には、リハビリ室があって、そこは一回300円なんよ」等々と会話が続く。おばさん3人が集まれば、こんな会話が一番ポピュラーなのではなかろうか。

 彼女たちの会話を聞きながら、その隣の席を見ると、こちらは初老の女性が一人で来ている。黙って一人で机に向かって座っているが、どうも様子が普通ではない。コーヒーカップを片手で軽く持ち上げ、反対の手でスプーンをカップに突っ込んでは、しきりに何かを掬うようにしてはせっせと口に運んでいる。

 何を食べているにか見えなかったが、買ったパンをコーヒーに漬けて、それをスプーンで掬ってでも、食べていたのであろうか。歯が悪いのであろうか。変わったことをする人もいるものである。奇妙な行動が気になったが、詳しくはわからないまま最後のコーヒーをすすって終わりにしたようであった。

 その隣の席には、若い女学生風の二人が向かい合って座っていたが、大きい目の手提げバッグを椅子の真下に置いているのが目についた。昔なら若い女性がバッグを無造作に地べたに置く光景など見られなかったが、最近の若い人は電車の中でも、何処ででも、カバンを地面に置くなど普通のことになっているようである。

 もうこの頃は、日頃の生活で、上と下の区別がなくなってしまっているし、地面も綺麗になったので、持ち物を直接地面に置くことには何の抵抗もなく、当然の行為となっている。昔なら若い女性がそんな乱暴なことをするなど考えられないことだったのになあと思ったりした。

 こうして喫茶店などでゆっくり休憩している時などには、つい周囲の人たちを観察して、その外観や会話の内容などから、それらの人たちの素性や関係などを想像し、時には自分勝手なストーリーをでっち上げたりして、密かに楽しむことになったりするものである。

 そう言えば、最近はその機会が減ったが、以前には人との待ち合わせや、時間調整で少し長く喫茶店などにいる時には、本などを読んだりする間に、こっそりと近くの客などのクロッキーなどもしたものであった。

 野次馬だの、好奇心旺盛だの言われるが、ついつい止められないままに、いつもその癖が出てしまうのである。男女のカップルでもいたらもっと面白いストーリーが出来たかもしれなかったが、残念ながら、今日はそういうわけには行かなかった。