「被災し病院搬送も放置、死亡」 遺族、病院を提訴へ

 SNSを見ていたら上記のような表題が出ていたので、どういうことなのか確かめようと読んでみた。

 記事によると、『東日本大震災で被災した宮城県石巻市の女性=当時(95)=が市内の病院で必要な介助を受けられずに死亡し、精神的苦痛を受けたとして、遺族が近く同病院に損害賠償を求める訴えを起こす由であった。

 遺族側によると、女性は震災前に同病院に通院し、日常生活に全面的な介助が必要とされる要介護5の認定を受けていた。2011年3月14日、自宅周辺が水没して孤立していたところを自衛隊に救助され、同病院に搬送された。

 同病院は治療の優先順位を決めるトリアージで、女性を「自力で歩ける軽症の患者」を意味する「緑」と判定。女性は飲食介助や点滴といった医療行為を受けられず、搬送から3日後の同17日に脱水症で死亡した。

 遺族は「介護状態の認定に必要な主治医意見書は同病院から発行されており、女性が自力で飲食できないことを同病院は震災前から把握していた」と指摘。同病院は搬送を受け入れた時点で、必要な保護措置を講じる義務を負ったにもかかわらず、漫然と女性を放置して死亡させたと主張している』ということであった。

 ここでいうトリアージというのは、この大震災のような突然大規模な災害が起こり、多数の犠牲者が出た場合、一度に皆を診るわけにいかないので、出来るだけ多くの人を助けるために、生命の危険度に高い人から優先的に診れるように、まず大勢の対象者を呼吸をしているか、心臓が動いているか、意識はあるかといった基本的な状態だけから選別して、緊急度の高い順に手当を行おうとする方法で、世界的に似た方法がとられているものである。

 当然、東日本大震災の時にも、何処でもこのトリアージによって選別され、治療が行われたはずである。従って、その時点でその老人は一応歩けて意識もあったので、治療に緊急性がないとして緑の札を貰って、加療が後回しになったものと思われる。

 しかし、遺族側から見れば、その病院への以前からの通院患者であるから、病院としては患者の状態を知っていたはずであるのに、放置されていたと受け取ったのも当然であろう。いかに救急の時でも、主治医なり看護師なりで、顔見知りなり、以前の通院時の状態を知っている者がおれば、当然対処の仕方も違っていたであろうが、トリアージは集団を相手とした機械的な選別方法であるから、自力で歩けて特別大きな傷害が見られなければ順番が後回しになったのは当然であろう。

 大勢の人々を緊急に処理しなければならない条件の下では、個々の例の対処方法については必ずしも最良の方法ではないことは周知の上で、機械的トリアージを最良の選択として行なっているのである。その上非常事態であったので、病院としての対応もそれまでと同じようには出来なかったのも当然であろう。

 恐らく病院としての対応に落ち度はなかったのであろうが、遺族側の心情も十分理解出来る。以前から通院して病状も知って貰っていたはずの病院に受診したのに、震災後の混乱時だったとはいえ、診察を他の人より後回しにされ、そのためか否かは別としても、その後に病状が悪化して死亡してしまったとあれば、遺族が納得しがたいのも当然であろう。

 SNSの記事だけなので詳しいことはわからないが、緊急時で病院側に平素のゆとりがなかったことは当然であろうし、病院に落ち度があったかどうかは不明である。ただ、トリアージはあくまで集団を対象とした緊急時の便宜的な方法であり、到底個々の患者さんの要望に十分答えられるものではない。必然的に小さな落ち度をも伴いうるものであることをも理解しておくことも重要であろう。