嫁はんよりは早よ死にや

 インターネット上のある調査で、緩和ケアや死生観などについての質問の中で、夫婦で「自分が先に死にたいか、後に死にたいか」と尋ねたそうである。20~70代の既婚者694人に実施したものだが、男性ではどの年齢層でも「自分が先に」が多かったそうである。それに対して、女性では50代までは男性と同様に「自分が先に」が多かったが、60代以上で逆転、「自分が後に」が多くなり、70代では67%を占めた由である。

 「自分が先に」と答えた435人にその理由を聞くと、「パートナーを失う悲しみに耐えられない」が最多。「死ぬときにそばにいて欲しい」「パートナーがいないと生活が難しい」が続いた。この上位三つを選んだ割合は、男性のほうが高かった。一方で「葬儀や墓について考えたくない」や「パートナーの介護をしたくない」を選んだ割合は女性に多く、男性より10ポイント以上高かったという。

 「自分が後に」を選んだ259人に理由を聞くと、男女ともに6割が「パートナーの最期をみとってあげたい」を挙げていた。「パートナーの生活が心配」は男性で3割、女性5割だったそうである。

「嫁はんよりは早よ死にや」とは以前から私が友人たちに言ってきたことなのでこの結果を見てなるほどなと納得した。統計上でも男の方が短命なので、男が女より先に死ぬ方が順当なのであろう。

 私の経験でも、これまで病院などで亡くなられた患者さんの例を振り返って見ても、少なくともこれまでは、男が先に死ぬ方が良かったのではと思われるケースが多かった。

 若い人では事情が違うだろうが、ある程度歳をとってからは、旦那に先に死なれても嫁さんの方は元気に生き続ける人が多い。中には旦那に死なれると「これでやれやれ」と背伸びをして元気になる人さえいる。一番ひどかったのは、がんで死にいく亭主の横で「まだでっか。心臓が強いのでっしゃろか」と死ぬのを待っている?ような人までいた。

 もちろん、中には旦那が死ぬと奥さんまでショックで心電図に一時的な異常まできたした人もいたが、多くの場合は、女性は相手の死後に、以前より返って元気になって、生き生きとして末長く暮らしていかれるケースが多かった。

 それに対して、男の方は女房に死なれると弱い。途端に元気をなくし、小さくなってしまい、1〜2年のうちに後を追うように逝ってしまうのを見ることが多かった。

 これまでの男は食事や身の回りのことを全面的に奥さんに頼ってきた人が多いので、女房に死なれると忽ち日常生活が成り立ちにくくなる人が多いのであろうか。近くに娘でもいて面倒を見て貰えるような人はよいが、そうでないと全くの孤独になって、環境の激変に適応出来なくなる人が多いのかも知れない。

 少しだけ若ければ、70台でなら再婚する人も時にいる。嫁さんがしっかり者で、生前ずっと尻に敷かれていた男に多いのであろうか。大抵、不相応に若い女性を後妻に選ぶが、あまり幸せな余生を送れるとは限らないようである。中には一人になっても元気で長生きする人もいるが、もともと孤高を愛する人なのであろうか。

 夫婦のどちらが先に逝くかは「神のみぞ知る」である。同時に死ぬわけにはいかないだろうから、いつかはどちらかが先に死んで、どちらかが残されることになる。本来人間は孤独なものであるから、一人になった老後の生活も考えて、いかに対処すべきかをも考えておくべきであろう。