映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」

 韓国映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」を見た。1980年の光州事件を扱ったもので韓国では1200万人もの観客を動員した映画らしい。

 この時代、韓国では戒厳令が敷かれており、メディアの報道も完全にブロックされていたので、光州事件についてはなかなか国外にまで伝わりにくかったが、日本にいたドイツ人のジャーナリストが光州に乗り込み、現場の実態を外国メディアに公開して実態が広く知られるようになったと言われている。

 そういった事実に基づいて作られた映画で、映画ではドイツ人記者がたまたま掴まえた個人タクシーの車で行ったことになったいるが、実際には朝鮮総連や韓国の組織の協力があって送り込まれた記者で、タクシー運転手もその関係者だったという説もあり、韓国では今だに分かりにくい事件で、色々議論があるところなのだそうである。

 それは兎も角、映画の設定では、そのドイツ人記者が光州に行くことをたまたま知った個人タクシーの運転手が、ただ金のためにその記者を乗せて行くことになっており、その運転手は嫁さんに逃げられて娘と二人暮らしで、歌謡曲の好きな何処にでも見られそうな運転手ということになっている。サウジアラビアで働いたことはあるが、その記者とは英語でのコミュニケーションも十分でない。そのタクシーがソウルからはるばる光州に向かい、途中、戒厳令により封鎖されている検問所をうまく突破したり、山の中の迂回路を通ったりしてなんとか光州に入ることになる。

 そこで軍隊が学生を主体とするデモ隊を実弾で弾圧する現場に直面することとなり、ドイツ人記者とともに軍隊や警察に追われながら、被害者を運んだり、病院を訪れたりし、自分たちも警察に追われて逃げなければならなくなったりして、一緒に行動しているうちに記者と運転手との間の理解が自然に出来、なんとか逃れて生還することになるストーリーである。

 光州事件という深刻な事件を扱いながら、その中に入り込んでしまうのではなく、出来るだけ他所から来た人の中立的な目で、しかし次次に起こる残虐な事実を冷静に見て描き出している手法が成功の元だと思われる。お終いに近いカーチェイスあたりは余分な気もするが、なかなか見ごたえのあるよく出来た一件に値する映画だと思った。