国際的いじめ International Bullying

  北朝鮮国連制裁にもかかわらず、2ヶ月あまりの沈黙を破って今度はアメリカ本土まで届くICBMを打ち上げた。それに対して、アメリカのトランプ大統領国連加盟国に北朝鮮との一切の関係を断つよう要請し、中国に対しても石油の供給を止めるように言っているようである。

 北朝鮮という国はこれまでの色々な情報を見ていると、戦前戦中の日本そっくりなことが多いので、どうしても好きになれない国であるが、そうかと言って、トランプ大統領やそれに乗った安倍首相などの話し合いではなくどこまでも圧力をかけ、その圧力で相手のやり方を変えさせるという政策には同調できない。

 話し合いの解決を前提としない圧力がどういう結果に結びつくのか見通しがあるのだろうか。圧力が極端になれば、窮鼠猫を嚙むことになる可能性が高くなる。それがどういう結果になるか考えただけでも恐ろしい。

 新聞などでは北朝鮮が殲滅されるというような記事も見られるが、一旦戦争になれば、被害は北朝鮮だけでは済まない。韓国の首都のソウルは休戦ラインから僅か50kmしか離れていないので、戦争の勝敗の如何にかかわらず、壊滅の危機に陥るであろうし、被害は朝鮮半島内にとどまるはずもない。

 日本の米軍基地が出撃の基地として使われるであろうから、当然日本も攻撃目標になる。沖縄の基地が目標になるだけでなく、日本を攻撃しようとすれば、例えば、敦賀湾の原発を狙うのが最もたやすいことではなかろうか。海辺に並ぶ地上に固定された原発はミサイルの絶好の標的であり、北朝鮮からのミサイル攻撃でなくても潜水艦による通常兵器の攻撃によってでも、その破壊は容易であろうし、破壊されれば放射性物質の拡散による被害がどれほど広がるかは東日本大震災原発事故を見れば容易に想像できる。しかもそれを防ぐ有効な手立てはない。

 北朝鮮が完全に破壊されたとしても、同時に日本列島の被害も莫大なものとなり、数え切れない死者が出ることも避けられない。アメリカは攻撃するだけで逃げれば済む。 ICBM が仮にに米本土まで届いたとしても、被害は局所的なもので、全体に影響するような被害を受ける可能性は低い。幸い、中国やロシアは平和的な解決を主張しているが、アメリカによる北朝鮮攻撃は絶対にやめさせ、話し合いの道を探すべきである。

 メディアの報道や世間の話などでは、北朝鮮という”ならず者”国家がアメリカを盟主とする国連の政策に反対して核やミサイルの開発を進め、理不尽な挑発を繰り返していることは断じて許されるべきではなく、核開発を放棄しなければ国連による制裁を解かないのが正義であるというのが当然のことと見做されているが、もともとなぜ北朝鮮が資源も貧しい小国でありながら、他のことを犠牲にしてでも国連決議にも反対して核やミサイルの開発を進めるのか、今回の危機のそもそもの原因についても考えてみるべきではなかろうか。

 誰の目にも明らかなことは、北朝鮮の核やミサイルの開発が他国を先制攻撃するためというよりは、他国から攻撃され滅ぼされるのを防ぎ、なんとか反撃能力を高め、攻撃を諦めさせ、自らが生き残るための唯一の手段と考えていることであろう。

 北朝鮮の側から見れば、朝鮮戦争は未だ休戦状態で終わっておらず、アメリカは未だに戦争相手国なのである。その上、アメリカを盟主とする西欧社会に逆らったイラクアフガニスタンリビアなどの小国は、結局アメリカに反対したために滅ぼされたという現実の歴史を目の当たりに見てきているのである。

 そうなれば自国を守るためには最低限、反撃できるだけの備えを整え、容易に攻撃されないようにしておかねばならないことになる。それが核とミサイルの開発なのである。

 世界の核兵器は五大國が核不拡散条約によって独占しているが、その規制もアメリカ主導の国連の都合で、インドやパキスタンはその保持を許され、イスラエルについては黙認されるという大国の御都合主義がまかり通っていることもある。  

 そうなれば、一概に北朝鮮だけに核開発をやめさせる道理は通らないことになる。イランに対する核をめぐる制裁の問題もあるが、北朝鮮はイランのような大国でもなく、未だアメリカとの平和条約も結ばれていないので、いつ攻撃されて潰されてしまうかも知れない恐怖に駆られても不思議ではない。

 世界の中で核保有国だけが核兵器を持ち、他の国には持たせない核拡散防止条約も、核を持たない国が一致して核兵器廃止を唱えているのに核保有国が依然として核兵器を独占し破棄に応じない現状では、自分たちだけが核兵器を持ちながら他国の核保有を禁止するのはどう見ても道理が通らない。

 ましてやアメリカなどが自分の気に入らない弱小國を潰してきた歴史は、どう見ても、大国の横暴としか言えない。いかに小国といえども生きて行く権利は大国と同様にあるはずである。当然弱小國が自国の生き残りをかけて、最低限の防衛手段を持とうとするのも当然であろう。

 こう見てくると、現在の北朝鮮の問題は決して変わった”ならず者”の独裁国家核兵器やミサイルを開発して平和な世界を脅し、挑発を繰り返す危険な行為をしているといった世間一般に広く行き亘っている構図とは大分異なった姿が本当のところではなかろうか。

 アメリカを盟主とする西欧社会が北朝鮮という自分たちのいうことを聞かない国を排除し、出来れば潰してしまおうとする”いじめ”とも言えるのではなかろうか。北朝鮮はそれに耐えて、必死で生き延びようとしているのであろう。

 やはり、この北朝鮮問題の解決は”弱いものいじめ”ではなく、話し合いによる北朝鮮生存権をも認めた上での、大国をも含めた世界の全ての核廃絶につながるものでなければならないのではなかろうか。