日本人の体型が変わった

 時代劇などでは色々な時代の人々が出てきて色々と活躍する。誰も実際にはその時代の人を知らないので、誰も不思議に思わないが、人々の体つきは時代によって違っているだろうから、実際には当時の実像とはだいぶ違った人々の印象を見ていることが多いのではなかろうか。

 私の知っているここ100年ぐらいの範囲だけで見ても、日本人の体格は違った人種といっても良いぐらいずいぶん変化している。

 私が子供の頃の、戦前の日本人は平均的に今よりも背が低かったし、殆どの人が痩せていた。栄養失調気味で痩せた人が多かったが、体はよく使っていたので、今より肉が引き締まった感じの人が一般的であった。外で働くことが多かったので顔も浅黒く、今より引き締まった感じで、歳をとれば長年の紫外線暴露などの影響で、皮膚の深い皺やしみが多かったし、鼻は低く、鞍鼻といってもよい人も多かった。

 栄養が悪く、胃腸の伝染病や結核が流行り、ことに戦争末期から戦後にかけては餓死者が出たほどであるから、背も低く痩せているのが普通で、栄養失調で手足が細く腹だけ出ているような子供さえいた。寿命も短く人生五十年と言われていた。

 それが変わり出したのは戦後を経て、高度成長時代などと言われるようになり始めてからである。朝鮮戦争の頃はまだあまり変わっていなかったが、1961年にアメリカへ行った時には、在留邦人に「最近の日本人は昔のように身が引き締まっていない人が多くなった」と言われたことがあるので、その頃から少しづつ日本人の生活が変わり、体型も変わり始めていたのであろう。

 そして、ベトナム戦争の頃になると、テレビのニュースなどで出てくるベトナム人を見る毎に、戦前の日本人と同じだなと思ったものだから、それからすると、その頃には日本人の平均的な姿はすでに大分筋肉の引き締まらないぽっちゃり型に変わって来ていたのだと思われる。

  さらにその後、80年代頃になって、大陸の残留孤児が問題になった頃には、日本では最早長年の農作業の結果の皺の多い日焼けした顔の人は田舎でも少なくなっており、帰ってきた孤児の人たちとは違ってしまっていた。その頃には田舎の若い女性も厳しい農作業から解放されていたので、化粧した可憐な顔ばかりか、もはや節くれ立つた手を見ることもなくなり、すらりとして都会の女性の手と変わりなくなってしまっていた。

 そんなことより、その間に日本人の外観で最も違ってきたのは身長が伸びたことであるが、それについてはすでに書いたのでここでは省略する。しかし、身長とともに男性や中年以降の女性では体重も増え、今や戦前とは逆に、肥満が問題とされる時代となり、車の普及もあって体を動かす量が減り、飽食も加わって腹の出た、しまりのない体型の人が増えた。

  身長や体重とともに、顔つきや手足も生活習慣で変わってくるものである。興味深いのは戦後日本人の鼻が高くなって、鞍鼻の人を見かけなくなってしまったことである。戦前には、それこそのっぺらな棒な顔に、口の上に鼻の穴が二つ開いているだけとでも言えそうな人までいたが、今や殆どの人の鼻筋は高く通り、鷲鼻傾向の人さえ見られるようになっている。どうも身長の伸びなどと同様、戦後の日本人のたんぱく質の摂取量が増えたことと関係があると考えられているが、時代によって顔つきまで変わるようである。

 こんな風に生活環境の変化で、日本人の体型や外観が変わってしまっているので、時代劇などで昔の日本を忠実に現在の俳優で再現しようとしても最早難しい。例えば、戦後の闇市を描こうとしても、飢えた時代にぽっちゃり体型の俳優では様にならないし、明治時代の庶民の姿を表現しようとしても実際より背の高い俳優ばかりでは、その時代の実態とは違った姿にならざるを得ない。

 ただ劇や映画はいづれも創作物であるから、事実との乖離も許されることであり、制作者も観客も実際を知らない劇中のやりとりなので、成り立っているものであろう。あまり気にかける人もいないであろうが、実際には時代が変わればそこに生きる人々も、同じ民族で、同じ場所の住民であっても、実像は常に変化しており、それに伴って時代の文化も変っていったものであろう。