漢字の読み方は難しい

 もう昨年のことになるが、安倍首相が「・・・云々」と書いてあるのを「デンデン」と読んで失笑をかったことがあったが、こういった覚え違いには時々出くわすものである。今は思い出せないが、私もある漢字の読み方を間違えて覚えていて、何年も経ってから何かの拍子の気がついて訂正したことがあった。

 滅多に使わない難しい漢字もあるし、読み方もいろいろあるので間違って覚えてしまう可能性もある。それに通常は振り仮名なしで使われるので、読み方がわからなかったり、間違えていても、困らないことも多いので、訂正される機会に恵まれないで済まされることにもなりがちである。

 ことに固有名詞となると、時に思いもかけない読み方をすることもあるので困ることも少なくない。普段にその地名なり人名に慣れている人たちにとっては当たり前のことなので、通常、振り仮名もつけずに使っているので、部外者にはなんと読むのが良いのか一層わからなくなる。

 地名について思い出すのは、子どもの頃親の仕事の関係で東京と大阪を行き来したが、東京にいた時は先生が大阪の枚方のことを「まいかた、まいかた」と呼び、大阪では先生が五反田のことを「ゴハンダ、ゴハンダ」と読むので吹き出したことがあった。今でも地方へ行った時など、読めない地名に出くわすことがあるが、幸い最近では道路標識にローマ字が併記されているので、それで読み方がわかることが多い。

 しかし、人名となると同じ漢字でも人により読み方が違うこともあるので一層ややこしい。「エンドウさん」と言うから、てっきり「遠藤さん」かと思ったら、「猿渡さん」であったり、次に「猿渡さん」に出会ったので、これはてっきり「エンドウさん」だと思ってそう話しかけたら、私は「サルワタリ」ですと言われたこともある。「上田」と書けば「ウエダ」と読む人が多いが、中には「カミタ」と呼ぶ人もおり、「カミタ」と呼ばれないと返事をしない人もいた。

 地名や氏名などの固有名詞はいっそのこと皆仮名書きに統一すれば良いがとも思うが、歴史的なものを引き合いに出して反対する人も多い。歴史を辿れば実際には固有名詞の漢字や読み方が途中でいつの間に変ってしまっていることも多いのだが、長年続いた漢字とかなの混合文化なので容易には変わらない。いつまでも年号と西暦が併用されているのと似たようなものであろうか。

 その上に、漢字の読み方で難しいのは漢字も生き物であるからその読み方も時代によって変わっていくことである。どの読み方が正しいかと言ってもその時代、時代の多くの人たちがどう読むかによって正しさも決まってくるものである。

 子どもの頃に喫茶店を「キッチャテン」と言うおばあさんがいて、私は間違えて読んでいると思っていつも気になっていたが、後になって「キッチャテン」と言う呼び名がなまっていつの間にか「キッサテン」と言うようになったのだと聞いて納得したことがあった。

 そんなことを言っていると、医学関係の日本語の述語には、昔漢学の素養のある人が外国語から翻訳したものが多いので、難しい言葉が多く、その読み方も難しいものが多い。そのため時代とともに誤った読み方をする人が多くなり、今では間違った読み方の方が一般に使われ、正しい読み方になってしまっているものが多い。

 以下の漢字をどう読みますか。試して見られてはいかがでしょう。

   口腔 今は コウクウ   昔は コウコウ

   洗浄    センジョウ     センデキ

   弛緩    チカン       シカン

   消耗    ショウモウ     ショウコウ

   貼付    テンプ       チョウフ

   脆弱              キジャク      ゼイジャク

   播種    バンシュ      ハシュ

 漢字も人間が使っているものなので、使う人間が変われば漢字の読み方も変わってきているのです。「・・・云々」もいつの日にか「・・・デンデン」と呼ぶようになるかも知れませんね。