読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

おばさんたちの立ち話

 先日、歯医者に行った帰り道のことである。住宅の並んでいる道端でその住民らしきおばさんとおばあさんの間ぐらいの年恰好の女性が三人、家の前の道路で立ち話をしている。その家には前の道路から塀の上まで一杯花の鉢が並べられている。その隣の家も少し引き込んだ玄関周りは鉢植えの花で満たされている。もう一人もおそらく近くの人なのであろう。おそらく三人とも花が好きで、それに関したことでも話していたのであろうか。

 行きがけにもそこを通ったのだが、その時は二人だったが、同じ場所で立ち話をしていたのに、帰りにもまだ同じ格好をして話し続けていた。

 こんなおしゃべりおばさんたちの立ち話の光景はどこでも見られることで珍しくもないが、丁度私がそこを通りかかった時に反対方向からオートバイに乗った郵便配達の人がやってきて、隣のぽストに投函してから次に正におばさん達が立ち話をしている家のポストにも手紙を投函した。その瞬間が私がおばさんたちの横を通り過ぎる時でもあった。

 何気無しに通り過ぎたのだが、何か異変を感じた。おばさん達三人が自宅の前で立ち話をしている時に郵便屋さんがやってきて、そこにある自分の家の郵便受けに、目の前で手紙を放り込んだのに、郵便配達人も三人の女性もお互いに全く関心がないのか、全然無関係に一瞬のうちにことが済んで、郵便配達人はそのまま隣の家の方にオートバイで行ってしまうし、話し込んでいた三人もまるで郵便配達の人を見たこともなかったかのように話を続けているのである。

 私の頭の中のイメージでは当然そこで「ご苦労さん」とか「ありがとう」という言葉が女性から郵便配達人に掛けられる情景であったが、それが聞こえて来ないのである。あるいは小さい声だったので私に聞こえなかっただけのことかも知れないが、女性の方にも配達人の方にも何らかの仕草の変化も見えなかったのでその可能性は低い。

 このぐらいの年恰好の女性が三人いて、このような情景は昔ならありえなかったことである。思わず何か薄気味の悪い未知の異世界に放り込まれたような感じに襲われた。ありえない世界を現実に体験させられて、こんなはずじゃなかったのに、気がついたら毎日普通に暮らしている日常生活がいつのまにか自分の知らない世の中に変わってしまっていた感じであった。

 見かけの平和な世界が突然変わったわけではないので、少し大げさな受け止め方かも知れないが、同じように見える何でもない日常の景色も、一皮剥けば裏ではすっかりも変わってしまっているのではないかと思わせられた瞬間であった。

人と人との挨拶がなくなってきたとはよく言われるが、一番愛想が良く挨拶してくれると思っていたおばさんたちまでが当然の挨拶をしないことに驚かされた一幕であった。