人間天皇

 天皇が高齢のため退位の希望を表明されてから政府はどう対応すべきか委員会を作って検討してきているが、いろいろな意見を踏まえながらも結局、現天皇一代に限る立法によって処理しようということになるらしい。

 天皇の意向を多くの国民が支持しているので無視する訳にもいかず、そうかと言って根本的な解決も憲法皇室典範が絡んでくるので容易ではない。委員たちの意見も分かれるので、今回はどうもひとまず一時しのぎの法律で済まそうということのようである。しかし、この問題は現在の象徴天皇制を続ける以上、いつかは解決しなければならなくなることは明らかである。

 先日来、この問題で政府に集められた委員の意見を新聞で見ていると、象徴天皇制をいかに維持していくかという議論ばかりで、現実の人間天皇に対する配慮が全くと言って出てこない。

 もちろん憲法皇室典範を踏まえた天皇制をどうするかの議論は大事で、そのために委員も集められたものであるが、昭和天皇が戦後に人間宣言を行って以来、天皇も普通の人と同じ人間なのである。人間天皇を前提とした天皇制を考えなければ将来にわたって象徴天皇制を維持していくのは困難ではなかろうか。

 右翼の論客ほど天皇の退位を認めたがらないようであるが、彼らにとっては人間としての天皇よりも、自分たちが利用できる天皇制に関心が深いように見受けられる。

 天皇が人間であるからこそ、高齢になれば人並みに体力も衰え、公務をこなすのも次第に困難になるのである。天皇の人権も尊重すべきであり、ならば天皇の自己決定権も当然認めるべきであろう。

 この件に関してはすでに、戦後間も無く、新憲法に伴う皇室典範の改正を審議されていた当時、昭和天皇の弟の三笠宮からの意見書が当時の枢密院に出され、問題が提起されていたようである。それによると、「皇位継承」の章では「『死』以外に譲位の道を開かないことは「新憲法の『何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない』とする精神に反しないか?」と疑問を投げかけられた由である。いかに国民の象徴といえ、人間である以上当然それには人間としての人権が伴うものである。

 その人間としての天皇が退位を望んでられるのであり、人間天皇を認める限り、同様なことは当然将来も起こることであり、人間としてのその他の問題も予想できることである。この機会を契機として、国民と同じ人間としての天皇をいかに象徴として維持していくのかを根本的に考えるべきではなかろうか。

 象徴天皇と人間天皇との折り合いをどう撮っていくかが象徴天皇制を維持していく要となるであろう。