天皇の退位希望

 天皇が82歳という高齢になり、前立腺や心臓の手術もするなど体力的な問題もあり、従来通りの公務を続けていくのが困難になるということで、生前に退位したい旨の希望を出され、そのことは海外にまで報道された。

 しかし象徴天皇という曖昧な制度のおかげで、宮内省は公式には否定し、政府の反応も冷たく、発言自体を否定的に捉えたり、皇室典範の改正が必要なので無理だとか、どうしても具合が悪ければ摂政を立てればという議論などで、急いで問題を取り上げる気配さえないかのようだ。

 制度的には、天皇ともなれば、仕事を辞めることもできず、摂政などを立ててでも、死ぬまで天皇を続けなければならないことになっているようである。

 天皇を象徴として敬い、政府も一般市民も、日頃から敬語を使って尊敬の念をあらあわしているぐらいだから、天皇から希望を出されたら、何をさておいても急いで対処するのかと思えば、思いの外冷たい。政府にとっては天皇という政治的立場には関心があっても、普通の人間と変わらない人間としての天皇個人に対する思いやりなどはないのであろうか。

 皇室典範で退位の規定がなくても法律で変えればできることだが、天皇を利用する政治的な立場からは死ぬまでおとなしくこれまで通りにしていてくれねば困るのであろう。見かけは天皇を尊敬し、国民にも暗に陽にそれを強要しようとするばかりか、そのうちに憲法まで変えて戦前のように大々的に天皇を利用しようとしているのが今に政権を含むこの国の右翼の立場である。

 ひょっとすると、天皇も次第に強まる今の政治の右翼的な動きに反対するも、政治的な発言を禁じられているために、自分の思いを率直に言うこともできないという苦悩が、心身の衰えに加わっているのかも知れない。

 皇室典範の改正が必要であるにしても、人間としての天皇に対する思いやりも必要である。ここらで象徴的天皇制自体の矛盾をどうするべきかをも考えるべき時が来ているのではなかろうか。皇族が減るのをどうするかとか、天皇は男性に限るべきかなど、将来のことも大事だろうが、現実に生身の人間としての天皇の希望も、象徴天皇を尊重し尊敬するなら、早急に対応対処を考えるべきであろう。