梯子を外される

 オランダのハーグにある常設仲裁裁判所が中国の南シナ海での主権を否定したことで安倍首相が中国の李克強首相にこの判定を受け入れるよう話して激怒を買ったとか新聞が報じている。尖閣のことなどもあり、周辺事態の危機を煽り、緊急事態法などをめぐる憲法改正なども見据えてこの機会にとばかり中国に外交的な圧力をかけたのであろうが、もう少し慎重にやって欲しいものである。

 この仲裁裁判所はアメリカも加入していないもので、その裁判の決定に拘束力はなく、しかも今回の裁判では当事国同士が同意した上で判定することになったいるものを、中国が初めから同意していないものを進めたもののようで、多分に政治的な関与もあるようにも思われる。その上、アメリカもこういった国際裁判の結果を無視している例もあるそうだし、おそらく中国もこの判定に従うことはなく、それを前提としてアメリカなどとの話し合いで事をを進めていくことになるであろう。

 そうしたところへ、第三者である日本が直接関係のない地域の微妙な問題に口を挟むことが日本にとって利益になるかどうか慎重に判断すべきであろう。南シナ海の通行の権利は保証されていることだし、それ以外に日本は直接南シナ海に利害関係を持たない。アメリカの力を背景にこの際外交的に中国を孤立させようという思惑もあるのであろうが、ヨーロッパは遠方なので関心が薄いし、アジアの諸国もモンゴルでの会議の結果を見てもわかるように中国の影響の大きさをも勘案して慎重である。

 そんなところに、日本だけが突出していい調子に乗ってあまり挑発をやり過ぎるのは無駄な緊張を高めるだけで誰にとってもあまり利益にはならないのではなかろうか。アメリカに寄りかかった「虎の威を借る狐」のように見られるだけであろう。

 このようなことを続けていたら、いつかアメリカに「梯子を外される」恐れがあることも考えておくべきであろう。アメリカにとって今やアジアで一番大事な国は日本ではなく中国である。アメリカはアメリカの利害に基づいて行動するのであり、日米の利益が共通する時は良いが、日本といつも一致するとは限らない。

 日本がどうであろうと、アメリカに取って都合が悪ければアメリカは常に日本に同調するわけではない。中国との関係やアメリカ自体の関係で他の選択肢の方が良ければ、日本を無視してでも自己の利益を追求するのは当然であろう。

 さらにそういう可能性が時代とともに次第に高まってきていることも考慮しておく必要があろう。日本の利益につながらないような必要以上の挑発行為は慎むべきである。あまりいい気になってやりすぎると、後ろを見たら梯子を外されてしまっていて孤立してしまう恐れのあることも考えて、外交はもっと慎重に進めてもらいたいものである。