甲状腺がんの「多発」

 東日本大震災から早くも4年経つ。チェルノブイリの時の経験に照らしてそろそろ子供の甲状腺癌が増えるのではないかと想像されるが、福島県などでは当時18歳以下だった県民役40万人を対象に甲状腺癌の検診が行われており、その結果についていろいろ議論が交わされているようである。

 検診の結果によると今年の6月末までに138名が「がんまたはがんの疑い」と診断され、そのうち104人が手術によりがんと確定したという。この数からすると確かに子供の甲状腺癌は過去の統計に比べて極端に増えていることになる。検診でがんと診断された人の割合は県全体で30倍、県央部で50倍ぐらいの多発だと言われる。

 事実はこうであるが、その増加が原発の爆発による放射線の影響によるものかどうかに関しては、意見に対立が見られる。これまでに子供の甲状腺癌について最近と同じような形で放射線甲状腺に対する影響を詳しく調べた歴史がないので、どこまでを放射線の影響と結びつけて良いかは誰にもはっきりとした線引きが出来ない。

 甲状腺の検査を綿密にすればするほど甲状腺癌の発見率が増えるが、見つかった癌が全て死につながる悪性のものではなく、「生涯発症しないような成長の遅いがんを見つけている」という「過剰診断」説もあり、見かけ上はがんが多く見つかっても実際に増えたとは必ずしも言えないという意見の人もある。

 事実、何年か前に韓国で甲状腺の精密検査が広く行われるようになり、その時がんがあまりにもたくさん見つかり問題になったことがあったが、それに並行してがんの死亡率は増えてはおらず、検査によって良性の癌の発見が増えたための見かけ上の癌の増加とされたことがあった。この時のがんの増加率は15倍程度だったようである

 しかし、それに比べても現在の福島での検査では増加の率が多過ぎるので、見かけ上のものと考えるより、やはり放射線の影響を考慮すべきだという意見もあり、「過剰診断説」を採ると100人以上の手術が不適切だったことにもなるが、手術例の7割に転移が見られたこともある。また被ばく量と病気の相関関係も見られるそうで、見かけ上の増加に過ぎないとは言えないとする意見も強いようである。

 放射線をめぐる解釈には政府の原爆事故の被害を矮小化し隠そうとする政治的な思惑が影響するので、事実を曲げてでも放射線の影響を無視しようという勢力と、放射線の影響を見出し、その対策を講じる必要を説く勢力との見えない争いが起こることにる。

 真実のところはもう少し検査を続けながら結果を確かめていくよりないであろうが、原発の爆発が起こり放射線がばらまかれたことは事実であり、放射線甲状腺癌を誘発することも証明済の事実であるから、少なくとも放射線によって甲状腺癌が増えた可能性がゼロではないことを考慮に入れて慌てて結論を出すのではなく、その時々の現実に対応しながら、注意深く経過を見ていくことが大切であることを忘れてはならない。