イラン映画「ボーダーレス」

 久しぶりにイランの映画を見た。ボーダーレスと言うタイトルで、まだ30代の若い監督の作った映画で、赤ん坊を除けば3人しか登場せず、その3人がそれぞれお互いに通じない別の言葉を喋り、初めから終わりまでただ仕草や行動だけでコミュニケーションを取るという設定である。しかもその3人が全員素人の配役だそうで、撮影の場所も明示されていないが、イランとイラクの国境ではなかろうかと思わせる川に座礁して捨てられた廃船の上での話になっている。

 その船で一人で暮らす少年が船の上から釣った魚を日干しにし、河原で手に入れたのであろう貝殻を細工してネックレースを作り、国境の川を潜って対岸へ行き、それらを売って食料や必需品を得て生活しているという設定が始まりである。

 そこへある時、銃を持った少年兵がその廃船に逃げてきて、銃で少年を脅し、勝手に紐で境界線を引いて自分の領分を決め、船内の物を持ち出したりして、お互いに反目しながら共に過ごしていたが、ある時、船から出た少年兵が赤ん坊を連れて帰り、その少年兵が女だということがわかる。

 以来半ば反目し、言葉もわからないまま、少年は赤ん坊のミルクを買ってきてやったり、赤ん坊をあやしたりして次第に女性との共同生活が始まる。

 そこへ今度は中年のアメリカ兵が、脱走したのかはぐれたのかわからないが、逃げ込んでくる。二人はそれなりに協力してそのアメリカ兵を部屋にこじ込めることに成功する。しかしアメリカ兵は絶望して死のうとするが死ねない。ピストルを捨てて敵意のないことを示し、なんとか監禁された部屋から出してもらおうとする。少年は口渇に苦しんでいるアメリカ兵に水をやる、女性の方も初めアメリカ兵ということで憎んでいたがやがて言葉もわからない3人がなんとか一緒に暮らすようになる。

 ところが食料を求めて少年が対岸へ行き、帰ってきた時には、留守中に何が起こったのか、廃船の中の居住区は荒らされ、アメリカ兵も女性も赤ん坊も誰もいなくなってしまっていたというストーリーである。

 ラストシーンが仲々良く、少年が作った元どおりのゆりかご状のベッドが揺れて少年が写っているが二、三度揺れた後には少年が消えて、空のベッドが二、三度揺れて画面が消えて映画が終わるというようになっている。

 他のの国の映画では見られないイランらしい素晴らしい映画であった。若い監督なのに映画のシーンも仲々凝っていて良かった。救いはないが、現在の戦禍に振り回されている中東の複雑な現状を客観的、比喩的に描いていて人々に深い印象を与える映画であった。