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誰も責任をとらない国

 誰でも人を殺したら殺人犯となり罰せられると思うだろう。しかし敵国とされる人たちを大量殺戮すれば英雄になる。車を運転していて誤って人を轢けば過失致死罪で罰せられるが、危険性が予見出来ているのに電車が脱線事故を起こして大勢の人を殺しても鉄道会社の責任者は罰せられないし、原発事故で国内外にまで及ぶ災害を起こしても未だに誰も罰せられていない。これをおかしいと思わない人はいないのではなかろうか。

 刑法で過失責任が問えるのは個人だけだそうである。107人が死亡したJR宝塚線の事故の裁判でも判決で「大規模鉄道事業者として率先して安全対策を進めることが強く期待されていた」とされ、JRの安全軽視の姿勢が明らかで、経営陣の責任が極めて重いにもかかわらず、元社長らは「安全対策は担当者に任せていた」「安全装置を設置する法的義務がなかった」と言い全員無罪となった。

 事故の原因は死亡した運転士が速度を出し過ぎたためとされたが、現場が急カーブに切り替えられ、そこを定時運転のためには速度を出さねばならなかったのに、それに対応する他の路線には設置された安全装置がまだ設置されていなかったのである。

  組織を罰する法律の導入も考えられるようだが、組織は人が作るものである。いかに複雑な組織でもいかなる仕事についてもあらかじめ個人の責任範囲を明らかにした上で組織を組むべきで、それが明確でない場合には経営者である最高責任者がその責を負うべきである。あくまで人の組織は人が責任を負うべきである。

 組織が大きくなればなるほど責任の所在があいまいになるような現行法のために、明らかな人災なのに誰も罰せられないようなことがあっても良いだろうか。

 4年前の東日本大震災の時に生じた原発事故では事後の調査ではっきりと人災とされており、原発の安全性については多くの原発開発時にいくつも危険性を訴えた訴訟が起こされたのに、安全と判断され、国会でも危険性が指摘もされていたにもかかわらず、そのまま運転が続けられ、その結果があのメルトダウンの事故につながったのである。

 そのため膨大な人たちが住居や土地を奪われ、放射能に脅かされ、4年後の今も被害の終息が見られていない。にもかかわらず事故を起こした東電は国の保護を受けて健在であり、刑事事件としての捜査も行われず、事故の保障も進まず、誰一人事故の責任を追及されていない不可思議な状態が続いている。

 どうしてなのか誰も口を閉ざしたままである。世界の先進国と言いながらこれが現状である。明らかに巨大な組織があり国家的とも言える大きな仕事がなされたことが明らかなのにどこに責任があるのかわからず、問題があっても重大な事故を起こしてもトップが頭を下げるだけで誰も責任を取ろうとしない。この国はそんなに無責任な国なのであろうか。

 そういえば最近のオリンピック競技場の建て替えやエンブレムの問題でもオリンピック委員会があるにもかかわらず、お互いに非をなすりつけ合うだけで何処に責任があるかさえはっきりせず、誰も責任をとらないことを見ても、この無責任体制が普遍的なものであることを示しているようである。

 それでもこれらの無責任ぶりはまだ知れているもので、この無責任さの根源はあの戦争の責任を誰もとらずにうやむやにしてしまった体制自体にあるのではなかろうか。

 否、戦争の始まりさえ、あれだけ国民精神総動員だの、一億一心だのと煽り、万世一系の天皇制の下、大政翼賛会や内閣、帝国陸海軍など国をあげての開戦であったのに、皆が何となく何物かに押されつつ、ズルズルと戦争になり、誰も戦争を起こしたという意識を持った指導者がいなかったのが実情だったようである。大日本帝国がそういう無責任体制であったと言えるのではないか。

 しかも、戦後、戦前から戦中にかけてあれほど「天皇陛下のためには命を賭けてでも」とか「天皇陛下万歳といって戦死した」とか言われ、「恐れ多くも陛下におかせられましては」といわれて直立不動の気おつけをさせられ、すべてが天皇陛下のためといって戦争がすすめられたのに、戦争に負けたら天皇は責任をとるどころか、国民には「あっそう」と言うだけで死に、天皇は今も続いている。

 戦時中の閣僚や軍人達に対する責任の追及も占領軍による裁判は行われたが、この国としての責任の追及や懲罰はついに行われないまま過ぎ、戦前の官僚が占領軍と取引して、戦後も戦前の官僚体制を温存して、それが現在まで続いてきててしまっているのである。中には戦時中の大臣であり戦犯とされながら、占領軍と取引して生き延び総理大臣になった者までいる。この無責任体制の組織が今日まで続くこの国の無籍任体制の根源ではなかろうか。

 こういう基本的な体制が続く限り、この国で何かにつけて見られる無責任さは決して無くなるものではないのではないと思われる。