憲法違反でも良いのか?

 日本という国は民主主義国家だと皆が思っている。憲法でもにも第九十七条で「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」と国民の基本的人権を高々と謳い、第九十九条には 「天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と書かれている。

 この国では政府は当然憲法を守らなければならない義務があるのである。更に少し長くなるが、第24回国会 衆議院内閣委員会 憲法調査会法案公聴会(公聴人・戒能氏)の記録を引用すれば、

憲法の改正は、ご承知のとおり内閣の提案すべき事項ではございません。内閣は憲法の忠実な執行者であり、また憲法のもとにおいて法規をまじめに実行するところの行政機関であります。したがって、内閣が各種の法律を審査いたしまして、憲法に違反するかどうかを調査することは十分できます。しかし憲法を批判し、憲法を検討して、そして憲法を変えるような提案をすることは、内閣にはなんらの権限がないのであります。この点は、内閣法の第5条におきましても、明確に認めているところでございます。(中略)内閣法のこの条文は、事の自然の結果でありまして、内閣には、憲法の批判権がないということを明らかに意味しているものだと思います。(中略) 内閣に憲法改正案の提出権がないということは、内閣が憲法を忠実に実行すべき機関である、憲法を否定したり、あるいはまた批判したりすべき機関ではないという趣旨をあらわしているのだと思うのであります。憲法の改正を論議するのは、本来国民であります。内閣が国民を指導して憲法改正を企図するということは、むしろ憲法が禁じているところであるというふうに私は感じております。(中略)元来内閣に憲法の批判権がないということは、憲法そのものの立場から申しまして当然でございます。

 内閣は、けっして国権の最高機関ではございません。したがって国権の最高機関でないものが、自分のよって立っておるところの憲法を批判したり否定したりするということは、矛盾でございます。こうした憲法擁護の義務を負っているものが憲法を非難する、あるいは批判するということは、論理から申しましてもむしろ矛盾であると言っていいと思います。」とあり、政府も当然その義務を認識しているはずである。

 こういうことを踏まえてみれば、最近の安部政権のやり方がいかに国民を無視し憲法を踏みにじった政治のやり方をしているかということがわかる。

 憲法九条には今では誰でも知っているように「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と書かれている。

 現在のこの国の実情がいかにこれとずれているか、誰の目にも明らかである。いかに屁理屈をこねようと、子供にも明らかな憲法違反である。更にそれを強め、遂には憲法改正まで企むのは立憲政治を否定するファシズムと言われても否定出来ないであろう。

 今回の安全保障関連法案の改正は国の在り方まですっかり変えるような大問題にもかかわらず、安部首相は国会で審議をする以前ににアメリカへ行って憲法に違反する約束をし、それを夏までに国会で成立させようというのである。

 国民を犠牲にしてでもアメリカへの従属を深め、集団的自衛権の名の下に日本のためでない戦争まで世界中で出来る国にしようというのである。それが「平和の為の抑止力」であり、「絶対に戦争に結びつくものではない」というが、「平和の為の抑止力」は「平和の為の戦争」に繋がることは歴史を見ても明らかである。歴史上多くの戦争が「平和のため」として戦われており、「東洋平和のためならば」と歌わされた戦前の記憶が蘇ってくる。実際に戦争が起これば「想定外」ということになるのだろうか。それでも政府は良いかもしれないが、国民はたまったものではない。

 明らかな憲法違反を力づくで堂々と行い、憲法も変えようとする現政府のやり方は、たとえ選挙で選ばれたものであったとしても、国民が許すべきことではないであろう。国民を無視してまでアメリカへの従属を深めようとするもので、将来この国に大きな災害をもたらす危険も考えておかねばならないであろう。

 せっかく平和憲法のおかげで70年間平和に暮らせてきた国民を明らかに憲法にさからってまで戦争に駆り立て、再び他国の人を苦しめ、その恨みを買い、国民にも多くの犠牲を強い、この国をも危険にさらすす可能性の大きい道になぜ賭けねばならないのであろうか。果たして「この道しかない」のだろうか。

 いくら従属国であっても、これまで通りに憲法を楯にアメリカの要求を拒み続けることだって出来るのではなかろうか。世界は急速に変わりつつある。眼前の利害だけに捉われずに、広く意見を取り入れ、広い視野で将来を見据え、いろいろの可能性を検討して、人々の安全と生活を守る施策を考え、実行していくのが政府のやるべき政治ではなかろうか。

 私はやがてこの世にいなくなるであろうが、長く暮らしてきた周りの人たちやこの国に愛着を感じるが故に、この国の未来が何とか人々が住み良い幸せな所になっていて欲しいと願わざるをえないのである。

 追記:この後6月4日に衆議院憲法審査会が行われ、自民党が推薦した人を含め三名の憲法学者が揃って集団自衛権憲法違反だとする意見を述べ政府を慌てさせた。