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夜の電車

 この歳になるとさすがに夜遅く帰ることも、夜出かけることも少なくなったので、夜の電車に乗る回数も減ってきたが、昨日は夕方から年甲斐もなくなお誘蛾灯に誘われる蛾のように年末恒例の市内のイルミネーションを見に行ったので、夜の八時頃の阪急電車で帰った。

 もうラッシュの時間も過ぎていたし、いつもとは違うホームからでる能勢の方まで行く特急電車だったのであまり混雑しておらず、発車時刻まで間があったこともあり、女房と二人並んで座ることが出来た。発車時になるとさすがに座席はいっぱいになったが立っている人がそれほど多いわけでなく向かい側の座席の様子が見渡せる程度であった。

 向かいの座席に座っている人たちを見ると、八人掛けのシートの一番左端には歳の頃六十台の後半から七十そこそこぐらいの老人が二人座り、片方がスマホのようなものを見、他方がそれを覗き込むようにしながらしきりに話し合っている。話はほとんど聞き取れなかったが、仕草からどうもスマホを見ているが使い方でわからないことが多く、老人二人でああやこうやと勝手な意見を言い合っているような感じであった。

 その右には痩せた若い女性がカバンを膝に抱えてスマホを見ており、次いで中年の太ったサラリーマンが目をつむってじっとしている。次が女性でやはりスマホを見ている。その右が定年間近なサラリーマンで頭を前に傾げて眠っている模様。そして一番右は何処かで飲んできたのであろう太った赤ら顔の六十過ぎでまだ仕事をしているのではないかと思われる男性であった。

 そこへ発車早々にやってきた五十歳ぐらいのサラリーマンが老人達と女性の間に座席の隙間を見つけてちょっと会釈しただけで割りこんで腰掛ける。横の座席の人たちが皆が少しづつずらせば十分一人が座るスペースがあるのだが、割りこんだ男は声をかけないし、眠っている人もあるので女性だけが体をずらすだけで右よりの人達は全く動こうともしないので、生じたスペースでは二人はちょっと窮屈である。

 それでも男性は平気でおもむろに自分のカバンを開け始めたが、女性は窮屈なためか、無言で立ち上がりドアの方へ立ち去った。当然割りこんだ男には自分のために女性が席を立ったことが分かっているはずなのに平気である。声すらかけない。座ったままで鞄からタブレットを取り出してそれを見だした。

 一般にこのぐらいの年齢の男性に行儀の悪い人が一番多いような気がする。仕事では丁寧な言葉も使い上司や客には気も使っている筈なのに、それに疲れた反動なのか、会社を離れると横柄で普通の挨拶さえも出来ない人がいる。

 そう思いながら見ていると、しばらくタブレットを見ていたその人も疲れたのかタブレットを膝に置いた鞄と体の間に挟んだままうとうとと眠ってしまった。見るとスマホを見ていた女性もいつの間にか眠っているし、他の男性たちもみな眠ってしまっている。

 ところが左端の老人二人は、スマホはしまったものの相変わらず元気にしゃべり続けている。二人とも元気で目が輝いている。その二人が明るい服装であったこともあり、あとの現役世代の揃いも揃って黒装束の五人の疲れ切った姿とがあまりのも対照的で興味深かった。

 もっと歳をとった老人ではこうはいかないだろうし、現役世代は見ての通りこき使われて疲れ切っているし、今では定年を過ぎて仕事から解放され、しかもまだ体力のある六十歳の後半から七十歳の全半あたりの老人が一番元気なのではなかろうか。