バトンドールやグランドカルビー

 この間、甥が来た時にお土産にグランド・カルビーなるスナック菓子を貰った。日頃菓子にはあまり縁のない私にはどんなお菓子なのか話を聞くまで知らなかったし、食べてみるまで実態も掴めなかった。

 奇麗な外箱にはグランド・カルビーと書いてあり、外箱を開けると中に色違いの内容の異なった小箱が数個入っており、さらにそれぞれの小箱の中には二袋に分けられた菓子が入っていた。しかし、その一袋は比較的大きいのにお菓子が5〜6枚かさかさに入っているだけであった。明らかに過剰包装である。

 この見せかけの立派なお菓子は何処にでも売っているものではなく、手に入れるのも難しいようである。特定のデパートでしか手に入らず、それも予め整理券だかを求め、それを決まった販売時刻に持って行って初めて買えるもので、一日に販売される量が限定されるので、売り切れのこともあるそうである。そんな貴重なものだからこそ甥がわざわざ求めて買って来てくれたものであろう、感謝に堪えない。

 そんなものだから一体どんな珍しいお菓子だろうかと開けてみると、何のことはない。ポテトチップスである。昔からビールでも飲みながらテレビで映画を見る時などになくてはならないなじみのもので、つい次から次へとバリバリ頬張って食べ過ぎがちなあのポテトチップスである。そういえばカルビーという会社は前からポテトチップスを作っていた会社である。

 ただ、今回貰ったものは従来のものより分厚く、味付けに工夫がしてあって美味しい。しかし、これまで安価で一袋に沢山入っていて、いくらでも食べれるような感じの手軽なスナック菓子をなぜこんなに貴重なもののようにして、数量も減らし、過剰な包装をして高級感のあるものに仕立て上げねばならないのであろうか、疑問に思った。

 まるで場末の立て込んだ街の小さなアパ−トの一画だけを立派に飾り立てて豪華な邸宅に見せかけたような異様な感じである。何かよそよそしくてポテトチップスには似合わない。ポテトチップスはあくまでも庶民的な駄菓子で、気軽に食べられるままにしておいて欲しいものである。

 ただ、会社の立場も分からぬことはない。安物のポテトチップスもちょっと奇麗な衣裳を着せてやれば立派に見えるし、立派に見えれば馴染みの客も少し高くてもたまには贅沢をして上等な物を食べてみようと思ってくれるだろうし、そうなれば売り上げが延びるばかりか、食品会社としてのイメージも上がるということになるのではなかろうかと想像出来るからである。それに原料も少なくて済むから利益を大きくすることにも貢献するかも知れない。

 大きな夢を持てない庶民は日常生活の中で時には小さな喜びや幸せを求めて自分を慰めたくなるものであるが、そんな要望にこうした一寸した贅沢な食べ物やお菓子などがぴったり応えてくれるのではなかろうか。そんな背景がこのような一寸上等なお菓子を生むことになったのではないかと思われる。

 面白いことを考えるものだと感心していたら、このカルビーの戦略は二番煎じで、先にグリコがポッキーで既にやっていることを女房が教えてくれた。

 グリコのポッキーの方は名前も、バトン・ドール(金のスティック)としゃれた名前を付け、いち早く少し工夫を凝らしたポッキーをやはり立派な包装で包み、販売も阪急と高島屋の両百貨店に絞り、数量も限定販売して可成りな評判になっているのだそうである。

 最近はインターネットのお蔭もあってこういう情報の拡がりようも速いようで、殊に女性の間などでは食べ物の情報などは忽ち共有されているようである。女性の方が夢をみることが多いから尚更なのかも知れない。

 これでもうひとつ思いだすのは昔の化粧品の話である。化粧品の方は女性の美しくなりたいという夢に繋がりやすいので、同じようなことがもっと顕著に見られたようである。

 かってある人が大きい目の容器に化粧品をいっぱい詰め込んで安くすれば売れるのではないかと考えて、百円化粧品と銘うって売り出した。ところが他の同じ化粧品と比べてどれよりも安いのに一向に売れなかった。仕方がないのである人と相談して、その化粧品を小分けして小さなしゃれた瓶に入れて値段も高くして新製品として売り出したら今度は飛ぶように売れたそうである。

 人々は少しでも奇麗になりたいと思って化粧品を買うものである。実際には奇麗にならなくても、その化粧品によって奇麗になりたいという夢を持って化粧品を買うのである。

 従って売る方も、単なる商品を売るのではなく、ある程度その夢にも応えなければならないのである。夢につながるものとなれば視覚的にも感覚的にも美しくなければならない。価格は問題になっても二の次である。やはり少々高くても何の飾りもない味けない容れ物に入った百円よりも、いかにも美しい夢のような小柄な三百円の方が少しは美しくなれるのではないかという夢を見させてくれるので、少々高くてもそちらに手が伸びることになるのであろう。

 その時代や人々の隠れた願望や夢をも汲み取った商品を開発することが成功のもとなのであろう。グランドカルビーやバトンデオールなどもそういった庶民のささやかな夢にこたえて成功したのであろうか。